「キナーゼ阻害薬が作用するメカニズムは?」
「キナーゼ阻害薬はどんながんに対して用いられているの?」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、がん細胞が増殖するメカニズムやキナーゼ阻害薬の作用機序について徹底解説。
また、キナーゼ阻害薬が適応となる疾患や注意すべき副作用も紹介します。
本記事を読めば、キナーゼ阻害薬に対する理解を深められます。
興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
がんに対する治療法
がんに対する治療法として、主なものは以下の通りです。
- 手術療法
- 放射線療法
- 薬物療法
- 内視鏡治療
- 画像化治療(IVR)
このうち、手術療法・放射線療法・薬物療法の3つを三大療法と言います。
治療法の選択は以下の観点から行われます。
- がんが発生している臓器
- がん細胞の組織的な性質
- がんの進行度(ステージ)
複数の治療法を組み合わせるケース(集学的治療)も少なくありません。
がんに対する治療法のうち、薬物療法のみが全身に作用する治療法です。
作用するメカニズムから以下の4種類に大別されます。
- 細胞障害性抗がん薬(殺細胞性抗がん薬)
- 分子標的薬
- 免疫チェックポイント阻害薬
- ホルモン療法薬
このうち、キナーゼ阻害薬は分子標的薬に該当します。
分子標的薬とは
分子標的薬のターゲットとなるのは、がんに特異的であったり、正常細胞と比べて過剰に発現していたりする分子です。
同じ種類のがんであったとしても、有効な分子標的薬が同じであるとは限りません。
また、がん細胞自体による分子以外も分子標的薬のターゲットになり得ます。
具体的には、血管などの周囲組織に発現した分子がターゲットになる可能性があります。
分子標的薬の分類
分子標的薬は、抗体薬と小分子薬に大別されます。
| 抗体薬 | 小分子薬 | |
|---|---|---|
| 概要 | 特定の分子への抗体 | 分子量の小さな物質 |
| 作用部位 | 細胞外・表面 | 細胞内 |
| 主な作用メカニズム | 受容体活性化阻害 | 酵素阻害 |
| 作用持続時間 | 長い | 12~24時間 |
| 投与法 | 注射、間欠投与(1~3週間に1回) | 経口、毎日投与(1日1回以上) |
このうち、キナーゼ阻害薬は小分子薬に該当します。
がん細胞が増殖するメカニズム
キナーゼ阻害薬の作用機序を理解するためには、がん細胞が増殖するメカニズムを知る必要があります。
なぜなら、キナーゼ阻害薬をはじめとする分子標的薬がターゲットとしている分子は、がんの増殖メカニズムに関わっているからです。
かんが増殖するメカニズムは以下の通りです。
- 増殖因子が分泌(EGF・VEGF・PDGF・SCF・サイトカインなど)
- 増殖因子が受容体に結合し活性化(EGFR・HER2・VEGFR・PDGFR・KIT・サイトカインR)
- 受容体の活性化により細胞内の分子が活性化してシグナル伝達
- シグナル伝達により細胞増殖に必要な遺伝子が発現
- 細胞が分裂・増殖
続いて、シグナル伝達について見ていきましょう。
RAS経路
EGFR・HER2・VEGFR・PDGFR・KITの作用により、活性化する細胞内の分子がRASです。
以下2つの経路により、RASは細胞増殖に必要な遺伝子を発現させます。
- RAS → RAF → MEK → ERK → 遺伝子の発現
- RAS → PI3K → AKT → mTOR → 遺伝子の発現
さらに、BCR-ABLやALKといった分子がRAS経路の促進に関与しています。
JAK・STAT経路
サイトカインRの作用により、活性化する細胞内の分子がJAKです。
JAKの活性化はSTATの活性化を引き起こし、細胞増殖に必要な遺伝子の発現に繋がります。
RAS経路と比べてシンプルな経路ではあるものの、こちらも分子標的薬の重要なターゲットとなっています。
キナーゼとは
がん細胞が増殖するうえで、多くの酵素の活性化・不活性化や物質の代謝が行われています。
これらの反応は、蛋白質にリン酸という物質が付加されるリン酸化反応により引き起こされています。
そして、リン酸化反応を引き起こしている酵素が、本記事のテーマであるキナーゼです。
そのため、キナーゼはがん細胞の増殖において非常に重要な役割を果たしています。
リン酸を付加される蛋白質は、いくつものアミノ酸が繋がって構成されている物質です。
キナーゼは、どのアミノ酸にリン酸を付加するかにより、チロシンキナーゼとセリン・スレオニンキナーゼに分類されます。
キナーゼ阻害薬の作用機序
リン酸化反応を促進する酵素のキナーゼには、基質である蛋白質に結合する部位と、リン酸の原料である「ATP」に結合する部位があります。
キナーゼは、結合したATPのリン酸を蛋白質に移動させることでリン酸化反応を行います。
そして、リン酸化された蛋白質がシグナル伝達を進めていくのです。
ここで、キナーゼ阻害薬は、キナーゼが本来ATPと結合する部位に結合します。
その結果、キナーゼにATPが結合できなくなり、原料がなくなるため蛋白質のリン酸化反応が行われません。
そのため、キナーゼ阻害薬によりシグナル伝達を阻害できるのです。
キナーゼ阻害薬の種類
キナーゼ阻害薬として用いられている主な薬剤は以下の通りです。
| 受容体型チロシンキナーゼ阻害薬 | ・EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 ・HER2チロシンキナーゼ阻害薬 ・VEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 |
|---|---|
| 非受容体型チロシンキナーゼ阻害薬 | ・BCR-ABL阻害薬 ・ALK阻害薬 ・TRK阻害薬 ・BTK阻害薬 ・JAK阻害薬 |
| セリン・スレオニンキナーゼ阻害薬 | ・mTOR阻害薬 ・BRAF阻害薬 ・MEK阻害薬 ・CDK4/6阻害薬 |
キナーゼ阻害薬の適応疾患
キナーゼ阻害薬は様々ながんに対して用いられています。
代表的ながんとして以下の3つを紹介します。
- 腎細胞がん
- 肺がん
- 乳がん
それぞれについて見ていきましょう。
腎細胞がん
腎細胞がんは、腎臓にできるがんの一種です。
早期には症状が少ないですが、血尿や腰痛、発熱などで見つかることもあります。
進行すると肺や骨に転移する場合があります。
腎細胞がんは血管が豊富で、成長には血管の新生が重要です。
「VEGFR」など血管新生に関わるキナーゼを標的とした阻害薬が登場し、治療の選択肢が広がりました。
手術が難しい進行例でも、キナーゼ阻害薬で病状をコントロールできる可能性があります。
肺がん
肺がんは肺の組織にできる悪性腫瘍で、日本人のがん死因の上位です。
大きなリスクとして喫煙が挙げられますが、非喫煙者の発症も増えています。
がん細胞の組織から、非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分類されます。
| 分類 | 非小細胞肺がん | 小細胞肺がん | ||
|---|---|---|---|---|
| 腺癌 | 扁平上皮癌 | 大細胞癌 | 小細胞癌 | |
| 頻度 | 50%以上(増加傾向) | 約25% | 約5% | 約15% |
| 喫煙との関連性 | あり | 強い | あり | 強い |
| 進行速度 | 比較的遅い | 緩やか | 速い | 極めて速い |
近年、がん細胞の増殖に関わる「EGFR」「ALK」「ROS1」などの遺伝子異常が見つかっています。
これらの異常に対応するキナーゼ阻害薬が開発され、進行肺がんでも効果が期待できます。
乳がん
乳がんは乳房にできる悪性腫瘍で、女性に多いがんの代表です。
女性のがん罹患率では第1位、死亡率では第5位と報告されています。
乳がんでは、ホルモン感受性やHER2陽性/陰性など、分子タイプごとに分類され治療が行われます。
特にHER2陽性乳がんでは、HER2という受容体の異常活性ががん増殖に関与します。
このHER2を標的としたキナーゼ阻害薬が開発され、治療成績が大きく向上しました。
進行・再発乳がんでも、これらの薬剤で病状をコントロールできる可能性があります。
キナーゼ阻害薬の副作用
がんに対して高い治療効果を発揮するキナーゼ阻害薬ですが、注意すべき副作用もいくつか存在します。
代表的な副作用は以下の通りです。
| EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 | 皮膚障害、下痢、肝障害、間質性肺炎 |
|---|---|
| HER2チロシンキナーゼ阻害薬 | 皮膚障害、心毒性、下痢、肝障害 |
| VEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 | 高血圧、手足症候群、出血、下痢、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、アミラーゼ・リパーゼ上昇、肝障害 |
| BCR-ABL阻害薬 | 皮膚障害、悪心・嘔吐、骨髄抑制、体液貯留、肝障害 |
| mTOR阻害薬 | 免疫抑制、口内炎、高血糖、脂質異常症、間質性肺炎 |
キナーゼ阻害薬はがん細胞の分子を標的としていますが、正常細胞でも同じ分子を発現していることがあります。
この時、キナーゼ阻害薬が正常細胞をターゲットとしてしまい、以上のような副作用が生じるのです。
このような理由で生じる副作用を「on-target toxicity」と言います。
一方、標的となる分子とは関係なく生じる副作用を「off-target toxicity」と言い、代表的なものとして肝機能障害が挙げられます。
まとめ:キナーゼ阻害薬でがんを治療しよう
がんに対する薬物療法にはいくつかの種類があり、そのうちの一つが分子標的薬です。
分子標的薬はがん細胞の増殖に関わる分子をターゲットとする薬剤であり、代表的なものとしてキナーゼ阻害薬が該当します。
キナーゼ阻害薬が用いられている主な疾患として、腎細胞がんや肺がん、乳がんが挙げられます。
副作用には十分注意しつつ、キナーゼ阻害薬をがん治療に役立てましょう。