ベンゾジアゼピン系抗不安薬は不安や緊張を短時間で和らげる効果があり、多くの患者さんに使用されてきた薬です。
しかし、長期間の服用では副作用や離脱症状が問題となることがあり、脳への影響を心配する声も少なくありません。 一度飲み始めるとやめにくくなるという不安を抱えながら、症状とのバランスを取りつつ使用を続けている方もいらっしゃるでしょう。
本記事では、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の作用や起こり得る副作用、離脱症状の特徴、安全に使用するためのポイントを解説します。 薬のネガティブな面とも向き合い、必要な情報を得て正しく使用していきましょう。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬とは
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、不安や緊張を和らげるために用いられる抗不安薬であり、作用の速さと使いやすさから広く処方されてきました。 一方で脳の働きに作用するため、特徴や使い方を正しく理解することが安全に使用するためには重要です。
ここでは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の作用や種類、効果の現れ方について解説します。
作用の仕組みと即効性
不安障害は過度に心配や不安が起こって日常生活に影響を与える病気で、パニック障害や社会不安障害などのさまざまな種類があります。
このような症状に対し、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、脳内の抑制系に関与するGABAという物質の働きを強め、神経の興奮を抑える作用があります。 GABAの働きが強くなると過剰な不安や緊張が鎮まりやすくなるため、服用後短い時間で症状を和らげ、急激に強まった不安に対応できます。
ただし、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の即効性は心理的な安心感を強める反面、薬に頼りやすくなる要因にもなると指摘されています。 強い不安が起きるたびに服用する習慣が続くと、量が増えたり依存的に繋がったりすることがあるため、用法用量を守って使用することが大切です。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の有名な薬
ベンゾジアゼピン系抗不安薬には多くの種類があり、成分や作用時間の違いによって使われる場面が異なります。 有名な薬には、エチゾラムが主成分のデパス、ジアゼパムが主成分のセルシンやホリゾン、成分名がそのまま商品名になっているアルプラゾラムやロラゼパムなどが挙げられます。
アルプラゾラムやエチゾラムは短時間型に分類され、効果が出るまでの時間が短く、急な不安に頓服として使われることも多い薬です。 ロラゼパムは比較的安定した鎮静効果があり、中間型に分類される薬として広く用いられています。 ジアゼパムは長時間作用型で、筋緊張を和らげる作用も備えているため、筋肉のこわばりを伴う症状にも応用されることがあります。
このように、同じベンゾジアゼピン系でも薬ごとに特徴が異なるため、症状の種類に応じて適切に選択する必要があります。 薬の種類を理解しておくことは、十分な効果を得て副作用を避けるうえでも重要といえるでしょう。
効果があらわれるまでの時間と持続時間の特徴
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、服用してから効果を実感するまでの時間が短いのが特徴です。 非ベンゾジアゼピン系抗不安薬やSSRIといった抗うつ薬は効果が実感できるまでに数日から数週間かかりますが、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は早くて数十分、遅くても数時間で効果が出ます。
例えば、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の短時間作用型は服用後15分から1時間程度で効果があらわれ始め、中時間作用型や長時間作用型では服用後30分から2時間程度で不安が軽減し始めるとされています。 このスピード感は急性の不安症状に効果的な一方で、頻繁に服用すると脳が薬を求めるリスクが高まるおそれがあります。
また、薬の効果持続時間は薬の種類によって大きく異なります。 短時間型は急な症状に対応しやすいメリットがある反面、数時間で効果が切れやすいデメリットがあります。 一方、中間型や長時間型は頓服として使うほどの即効性はないものの、効果が長く続くため、日中持続する不安や夜間の症状にも適しています。
どのタイプにも長所と注意点があるため、症状の持続時間や生活リズムに合わせて使用することが大切です。 ただし、自己判断で増量したり別の種類に変更したりすると、依存のリスクや副作用の増加に繋がるため、服用方法は必ず守ってください。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の副作用
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は効果が強いぶん、副作用が現れやすいともいわれています。 ここでは、特に起こりやすい副作用と注意すべき点について解説していきます。
眠気やふらつきなどの副作用
最も多い副作用は眠気や倦怠感、ふらつき、集中力の低下などの中枢神経系に関連する症状です。 ベンゾジアゼピン系抗不安薬は脳の興奮を抑えて不安を軽減するため、日中の眠気が強まることがあります。 ふらつきや反応速度の低下が起こることもあり、特に服用初期や用量が増えたときには注意が必要です。
眠気や反応速度・集中力の低下は、乗り物の運転や高所作業などの危険が伴う行動に支障が出る可能性があります。 これらの副作用は代謝が低下している高齢者で強く出る傾向があるため、寝たきり状態に繋がるリスクの高い転倒には十分注意してください。
脱力や力が入りにくくなるなど運動機能への影響
ベンゾジアゼピン系抗不安薬には筋肉の緊張を和らげる作用があることから、体に力が入りにくくなったり、疲れやすくなったりといった副作用が生じることがあります。 これにより、歩き始めのふらつきや姿勢維持の困難が起こり、日常生活に影響が出たり、外出時の段差や階段などでの転倒リスクが高まったりするため注意が必要です。
この脱力感は薬の作用が影響していることから、用量や服用時間の調整で軽減できる可能性があります。
記憶障害や健忘
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の副作用で、記憶が抜け落ちる、出来事を思い出せないといった症状が起こる場合があります。 ベンゾジアゼピン系抗不安薬は記憶の形成に関わる脳の働きにまで影響を及ぼすことがあり、この作用によって一時的な健忘が生じることがあります。
この健忘はアルコールと併用した場合には強まるため、副作用を防ぐためにもベンゾジアゼピン系抗不安薬の服用中は禁酒することが大切です。 記憶障害や健忘は軽度であっても仕事や家庭生活に影響が出る可能性があることから、体の異変を注意深く見守っていきましょう。
息苦しさなどの呼吸抑制
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は脳の呼吸中枢を抑える方向に働く作用があり、呼吸が浅くなる副作用が起こる場合があります。 特に高用量の服用や他の中枢神経抑制薬との併用、アルコールの摂取は、呼吸抑制を強めるリスクが高まるため注意が必要です。
高齢者や呼吸器疾患を持つ人、睡眠時無呼吸症候群がある人では呼吸抑制のリスクが高くなる傾向があります。 呼吸抑制は命に関わる可能性があるため、息苦しさ、呼吸の浅さ、強い眠気が続くといったサインが見られた場合は速やかに受診してください。
悪性症候群による筋強剛と重篤な症状
悪性症候群は体の中で急激に筋肉が硬くなる筋強剛や高熱、意識の変化などを生じる重篤な副作用の一つです。 抗精神病薬で多く報告される副作用ですが、中枢神経に作用するベンゾジアゼピン系抗不安薬でも、急な薬の減量や併用薬の影響によって生じる可能性があるとされています。
筋強剛は筋肉が強くこわばり、全身に力が入りにくい状態になるのが特徴です。 これに加えて高熱や発汗の増加、脈拍の上昇、血圧の変動、意識の混乱など複数の症状が重なることがあり、進行するにつれて全身状態が急速に悪化する危険があります。 そのため、悪性症候群が疑われる症状がみられた場合にはすみやかに医療機関で治療しなければなりません。
悪性症候群を防ぐためには、急な減量や中断といった自己判断で薬の量を調整することを避けることが大切です。 悪性症候群はまれな症状ですが、万が一に備えて特徴を把握しておくことで、素早く対応できるようになるでしょう。
依存性と耐性の形成
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、長期間の使用によって依存性が形成されることがある薬です。 依存性には身体面と心理面の二つがあり、それぞれに特徴があります。
身体依存は、薬の作用に体が馴染むことで起こり、薬の量を減らしたり中止したりしたときに離脱症状が生じる状態です。 これは体が薬の効果があることを前提としてバランスを取っているなかで、薬が急に減ることでバランスが崩れて不安や不眠が強まりやすくなる症状です。
心理的依存は、薬を飲むことで不安が和らいだという経験が繰り返されるなかで、薬がないと不安になる状態のことです。 症状が出る前の予防として服用したくなる、外出時に薬がないと不安になるといった行動が続く場合、心理的依存が進んでいる可能性があります。
また、同じ量を使用しても、十分な効果が得られなくなる耐性も問題となります。 同じ量では症状が抑えられなくなって量を増やしたくなるため、副作用や依存のリスクが高まり、離脱症状も強く出やすくなることから注意が必要です。
依存性と耐性はベンゾジアゼピン系抗不安薬の性質によるもので、誰にでも起こる可能性があります。 このようなことからも、薬の使用は必要な量と期間にとどめて使うことが大切です。
脳へダメージの懸念
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の長期間の服用により、認知機能の低下や思考力の鈍化が見られるという報告があります。 これは薬の作用によって脳全体の抑制が強まり、注意力や判断力が低下することが要因とされています。
ある研究では長期の服用が将来的な認知症の発症リスクと関連する可能性が指摘されている一方で、ベンゾジアゼピン系抗不安薬では認知症の発症リスクは有意に増加しないという研究結果も報告されており、真相は解明されていません。
ただし、副作用として認知機能の低下が生じる可能性がある点は確認されていることから、脳へのダメージを最小限にするためも、必要最低限の量を必要な期間だけ使用する必要があると考えられます。 自己判断で長期間使用を続けず、定期的に医師と相談しながら治療を進めていくことが安全に繋がるといえるでしょう。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の離脱症状
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、長期間使用すると体が薬に慣れ、急に減量したり中止したりすると離脱症状が現れることがあります。 ここでは離脱症状が起こる理由と、その特徴について解説します。
離脱症状が起こるメカニズム
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、脳内の興奮を抑制する働きを強める作用があります。 長期間の使用が続くと、この作用に脳が適応し、薬によって抑えられていた興奮が薬なしでは制御しにくい状態になります。 そのため、服用量を急に減らしたり中断したりすると、脳の興奮が一気に強まり、不安や焦燥感が急激に増える離脱症状が現れるのです。
また、この離脱症状は急な中止によって強まりやすいため、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は少しずつ減量しながら治療終了へと向かうことが重要です。
離脱症状で起こる症状
離脱症状として報告される症状には、大きく分けて身体的なものと精神的なものの二つがあります。 身体的にな症状はけいれんや発汗、嘔吐、呼吸困難、頭痛、頻脈、幻覚などがあり、精神的な症状には不安の増悪や不眠、動悸、震え、落ち着かなさなど、自律神経の不調に関連するものがあります。
離脱症状は服用を長期間続けている人ほど出やすく、用量が多いほど症状が強まる傾向があり、長時間作用型よりも短時間作用型のベンゾジアゼピン系抗不安薬の方が離脱症状が起こりやすいといわれています。
離脱症状は服用中止後すぐにあらわれるとは限らず、数日後から数週間後に出ることがあります。 症状の強さには個人差があるものの、徐々に治まるケースが多く、減量方法を工夫することで症状を軽減が期待できます。
離脱症状を軽減するための工夫
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の減量は、急がずに段階的に行うことが基本です。 減量は1?2週間ごとに1回に使用する用量を少しずつ減らしていく方法と、服用間隔を少しずつ長くしていく方法などがあります。 また、短時間作用型の薬を使用している場合には、離脱症状のリスクが比較的少ない長時間作用型の薬に切り替えてから減量する方法が選ばれることもあります。
生活面の工夫としては、規則正しい生活を整えて、ストレス管理を行うことが推奨されています。 バランスの良い食事と十分な睡眠に加え、軽い運動を取り入れる、カフェインを控えるといった自律神経を整える生活を目指すことが大切です。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬を安全に使うために
ベンゾジアゼピン系抗不安薬を安全に使用するためには、薬の特徴や自身の体質を理解したうえで、正しい方法で服用することが重要です。
まず、自己判断による用量の増減は避けましょう。 体調によっては抗不安薬があまり効いていないように感じる日もあるかもしれませんが、不安が強くなったからといって量を増やすと、副作用や依存を強める原因になります。
反対に、体調が良いからと勝手に服薬を中止したり、減量したりすると離脱症状を引き起こす可能性もあります。 依存性や離脱症状のリスクを下げるためにも、用法用量を正しく守って使用することが大切です。
また、副作用を悪化させないように、生活習慣や体調の変化に気を配ることも忘れないでください。 副作用の原因は生活も大きく関わっており、特にベンゾジアゼピン系抗不安薬の服用中はアルコールの摂取は避けなければなりません。 十分な睡眠やバランスの良い食事、ストレスの軽減を心掛けることは、副作用を防ぐのに役立ちます。
もし、認知機能の変化やふらつきなどが以前よりも増えたように感じたときには、ためらわずに医師や薬剤師に相談しましょう。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の注意すべき副作用はふらつきや依存性
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は不安や緊張を和らげる薬であり、急激な不安症状にも速やかに作用するのが大きな利点です。 一方で、ふらつきや眠気、記憶の変化、呼吸抑制といった副作用、依存性、離脱症状などのリスクが存在する薬でもあるため、特徴を理解しながら使用することが大切です。
安全に使用するには用量を守ることや、症状の変化に気づいたときには早めに相談すること、生活習慣を整えることが欠かせません。 自己判断で量を増やしたり、急に中止したりすると離脱症状を引き起こすため、注意してください。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は適切に使うことで、日常生活や治療の支えとなる重要な薬です。 副作用を理解して、自身の体調や変化に耳を傾けながら正しく使用することが、安心して治療を続ける第一歩となるでしょう。