「乳がんってどんな病気なの?」 「抗エストロゲン薬が作用するメカニズムは?」 このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、乳がんのリスク因子や診断までの流れ、セルフチェックの方法や治療方針について詳しく紹介します。 また、抗エストロゲン薬が乳がんに対して作用するメカニズムも徹底解説。
本記事を読めば、乳がんや抗エストロゲン薬について理解を深められます。 興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
乳がんについて
乳房に発生する悪性腫瘍の乳がんは、50歳代の女性に起こりやすいがんの一つです。 乳がんについて、以下の観点から解説していきます。
- 疫学と5年生存率
- リスク因子
- 診断までの流れ
- セルフチェック
- 治療方針
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
疫学と5年生存率
2020年の統計によると、1年間に全国で乳がんと診断された人数は92,153人です。 女性において最も罹患率の高いがんであり、死亡数でも第4位と報告されています。
乳がんの5年生存率は、ステージごとに以下の通りです。
| ステージⅠ | 100% |
|---|---|
| ステージⅡ | 96% |
| ステージⅢ | 81% |
| ステージⅣ | 39% |
なお、乳がんにおけるステージは、腫瘍の大きさや転移の有無などにより分類されます。
リスク因子
乳がんの発症に関わるリスク因子は多岐にわたります。 代表的な要因は以下の通りです。
| 生活習慣 | ・飲酒 ・喫煙 ・閉経後の肥満 ・閉経後の運動不足 |
|---|---|
| エストロゲンの長期曝露 | ・早い初経 ・遅い閉経 ・出産歴なし ・遅い初産年齢 ・授乳歴なし ・長期間のエストロゲン+プロゲステロン併用療法 |
| 家族歴や既往歴 | ・乳がんの家族歴 ・BRCA1/BRCA2遺伝子異常 ・乳腺疾患の既往歴 ・糖尿病の既往歴 ・高線量の被曝歴 |
ここで、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの働きについて、簡単に紹介しておきましょう。
- 妊娠の維持
- 分娩の準備
- 乳汁分泌の準備
- 妊娠中の乳汁分泌の抑制
- 分娩後の乳汁分泌の開始
このように様々な働きを有しているエストロゲンが、乳がんの発症に大きく関与しています。 そのため、エストロゲンに対する長期曝露が乳がんのリスク因子となるのです。
診断までの流れ
乳がんと診断されるまでの流れは以下の通りです。
- 視診・触診
- マンモグラフィ・超音波検査
- 細胞診
- 組織診
以上により乳がんと診断されると、治療方針を決定するための検査に進みます。
| 画像診断(MRIやCT) | 腫瘍の正確な大きさや位置などを調べる |
|---|---|
| センチネルリンパ節生検 | リンパ節転移の有無を調べる |
※センチネルリンパ節:がん細胞がリンパ管を通って転移する場合に、最初に到達するリンパ節
最初に行われる視診と触診では、それぞれ以下のような所見がみられます。
| 視診 | ・乳頭陥凹 ・皮膚陥凹 ・血性の乳頭分泌 ・皮膚発赤 |
|---|---|
| 触診 | 以下の特徴を持つしこり ・無痛性 ・表面不整 ・弾性硬 ・境界不明瞭 |
視診や触診で乳がんの可能性が疑われると、侵襲性(検査される人が受けるダメージ)の低い画像検査であるマンモグラフィや超音波検査に進みます。 これらの検査により、腫瘍の位置や大きさ、形状や数といった情報を集めます。
その後に行われるのが、実際の腫瘍から細胞・組織を取ってきて調べる検査である、細胞診と組織診です。 これらの検査により、良性腫瘍なのか悪性腫瘍なのかを判断します。
また、組織診では腫瘍の様々な性質や悪性度も調べられます。 例えば、腫瘍細胞に浸潤性はあるのか、「ホルモン受容体」や「HER2」などの特徴を有しているのかなどです。
セルフチェック
診断までの流れを紹介しましたが、はじめの段階である視診と触診は自分自身でもすることができます。 特に、月経終了後1週間以内は乳房の張りが落ち着いているため、セルフチェックに適したタイミングです。
それでは、セルフチェックする際のポイントを見ていきましょう。
| セルフチェックの流れ(見る→触る→絞る) | チェックすべきポイント |
|---|---|
| 前かがみの姿勢や胸を張った姿勢で観察する | 以下のような変化があるか ・形の左右差 ・くぼみ ・発赤などの色調変化 |
| 胸を張り、3~4本の指を揃えて乳房に当てる 外側から乳頭へ円を描くように触る |
コンニャクの下に豆があるような感覚があれば、腫瘍の可能性あり |
| 乳頭を掴み軽く絞る | 血性をはじめとする分泌物が出れば、腫瘍の可能性あり |
以上のセルフチェックで何らかの異常が見つかれば、必ずすぐに医療機関を受診し、詳しい検査を受けましょう。 また、セルフチェックにて異常が見つからなかった場合でも、40歳以上の女性は2年に1回の検診が推奨されています。
治療方針
乳がんの治療では、乳がんの発生部位・周辺を治療する手術療法・放射線療法と、転移した病巣も含めて治療する薬物療法が行われます。 乳がんは早期であったとしても、微小転移を起こしているケースが少なくありません。
そのため、ステージごとに細かい違いはあるものの、薬物療法を組み合わせることが多いです。 早期がんであれば手術療法のみが行われるがんの種類も多い中で、この点は乳がん治療の特徴と言えるでしょう。
乳がんに対する薬物療法
- 参考サイト
- 乳がんのホルモン療法|SON CLINIC
乳がんに対する薬物療法として、主に用いられている薬剤は以下の4種類です。
| ホルモン療法薬(ホルモン受容体を発現している腫瘍にのみ有効) | ・GnRHアゴニスト ・抗エストロゲン薬 ・アロマターゼ阻害薬 |
|---|---|
| 細胞障害性抗がん薬 | ・アントラサイクリン系 ・タキサン系 ・アルキル化薬 ・葉酸代謝拮抗薬 ・ピリミジン代謝拮抗薬 ・プラチナ製剤 |
| 分子標的薬 | ・HER2阻害薬(抗HER2抗体薬、HER2チロシンキナーゼ阻害薬) ・CDK4/6阻害薬 ・PARP阻害薬 ・抗VEGF抗体薬 ・mTOR阻害薬 |
| 免疫チェックポイント阻害薬 | ・抗PD-1抗体薬 ・抗PD-L1抗体薬 |
上表の通り、抗エストロゲン薬はホルモン療法薬に該当します。 用いられる薬剤の選択は、腫瘍の組織的な性質により決定されます。
| ホルモン受容体陽性(約60~70%) | ホルモン受容体陰性 | |
|---|---|---|
| HER2陽性(約15~25%) | ホルモン療法薬、HER2阻害薬、細胞障害性抗がん薬など | HER2阻害薬、細胞障害性抗がん薬など |
| HER2陰性 | ホルモン療法薬、細胞障害性抗がん薬など | 細胞障害性抗がん薬など |
ただし、用いることができる薬剤の全てを使用するわけではありません。 再発のリスクや起こり得る副作用などを踏まえて、選択可能な薬剤の中からどれを使用するか決定します。
抗エストロゲン薬の作用機序
女性ホルモンの一種であるエストロゲンは、乳腺を増殖させる働きがあります。 そのため、乳腺細胞から発生する乳がんの増殖にも関与しています。
このことを踏まえて用いられているのが、エストロゲンによる乳がん増殖作用を阻害する、抗エストロゲン薬です。 ホルモン受容体を発現している、約60?70%の乳がんに対して効果を発揮します。
以下の観点から、抗エストロゲン薬の作用機序について解説していきます。
- エストロゲン産生経路(閉経前)
- エストロゲン産生経路(閉経後)
- 抗エストロゲン薬が作用するポイント
それぞれについて見ていきましょう。
エストロゲン産生経路(閉経前)
閉経前におけるエストロゲンの産生経路は以下の通りです。
- 脳の視床下部という場所から「GnRH」というホルモンが分泌される
- GnRHの刺激を受け、脳の下垂体前葉という場所から「LH」・「FSH」というホルモンが分泌される
- LHやFSHの作用により、卵巣でエストロゲンが産生・分泌される
なお、この経路を阻害する目的で使用されているホルモン療法薬が、GnRHアゴニストです。
エストロゲン産生経路(閉経後)
卵巣からのエストロゲン分泌がなくなった、閉経後におけるエストロゲンの産生経路は以下の通りです。
- 腎臓周囲の臓器である副腎で「アンドロゲン」というホルモンが産生・分泌される
- 脂肪組織が有する「アロマターゼ」という酵素の作用により、アンドロゲンがエストロゲンに変換される
なお、この経路を阻害する目的で使用されているホルモン療法薬が、アロマターゼ阻害薬です。
抗エストロゲン薬が作用するポイント
産生・分泌されたエストロゲンは、乳がん細胞のエストロゲン受容体に結合することで、がん細胞の増殖を促進します。 そこで、抗エストロゲン薬は自身がエストロゲン受容体に結合し、エストロゲンの結合を阻害します。
その結果、エストロゲンの作用が阻害され、がん細胞の増殖抑制効果を発揮できるのです。 また、GnRHアゴニストやアロマターゼ阻害薬と異なり、抗エストロゲン薬は閉経前・後のいずれにも使用できます。
抗エストロゲン薬の種類
主に用いられている抗エストロゲン薬は以下の2つです。
| 一般名 | タモキシフェン | トレミフェン |
|---|---|---|
| 用量 | 1日1回20㎎ | 1日1回40㎎ |
| 期間 | 手術後では5年間/再発・転移に対する場合は増悪するまで | |
| 主な副作用 | 肝機能障害、血栓症、子宮体がん、ほてり | |
まとめ:抗エストロゲン薬で乳がんを治療しよう
乳がんは、女性ホルモンであるエストロゲンが発症に関与している、女性において最も罹患率が高いがんです。 手術療法・放射線療法・薬物療法を組み合わせた集学的治療が行われます。
ホルモン受容体を発現している乳がんに対して用いられているのが、抗エストロゲン薬などのホルモン療法薬です。 使用する期間や副作用などに気を付けつつ、抗エストロゲン薬で乳がんを治療しましょう。