「抗がん薬による悪心・嘔吐ってどんなメカニズムで生じるの?」 「抗がん薬による悪心・嘔吐に対して用いる吐き気止めの種類は?」 このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、抗がん薬による悪心・嘔吐について、発生するメカニズムや分類などを徹底解説。 抗がん薬による悪心・嘔吐に対して用いられている、吐き気止めの種類や選択方法も紹介します。
本記事を読めば、抗がん薬による悪心・嘔吐や吐き気止めについて理解を深められます。 興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
がんに対する治療法
がんを標的とした治療として主なものは以下の5つです。
- 手術療法
- 放射線療法
- 薬物療法
- 内視鏡治療
- 画像下治療(IVR: Interventional Radiology)
以上のうち、様々ながんに対して広く行われる手術療法・放射線療法・薬物療法を、三大療法と呼びます。
しかし、がんに対して行われる治療法はこれだけではありません。 薬物療法の副作用に対する治療や、がんの症状に対する治療のことを、支持療法と呼びます。 本記事で取り上げていく吐き気止めは、支持療法で用いられている代表的な薬剤です。
抗がん薬でみられる副作用
- 参考サイト
- 外来化学療法室|湘南鎌倉総合病院
がんの治療を目的とした薬物療法では、主に以下のような薬剤が用いられます。
- 細胞障害性抗がん薬
- 分子標的薬
- 免疫チェックポイント阻害薬
- ホルモン療法薬
以上のうち、特に細胞障害性抗がん薬は強い副作用が起こりやすいです。 抗がん薬の副作用として、主なものは以下の通りです。
- infusion reaction
- 悪心・嘔吐
- 下痢
- 便秘
- 口内炎
- 白血球減少(易感染性)
- 血小板減少(出血傾向)
- 赤血球減少(貧血)
- 腎機能障害
- 肝機能障害
- 肺機能障害
- 心機能障害
- 皮膚障害
- 手足症候群
- 脱毛
- 末梢神経障害
このような副作用が続けば、QOL(生活の質)の低下は避けられません。 また、薬物療法を中断したり中止したりすることで、治療効果が低下する可能性も十分に考えられます。 そのため、QOLと治療効果を維持するために支持療法は欠かせないのです。
抗がん薬の副作用としての悪心・嘔吐
抗がん薬の副作用が様々ある中でも、代表的な症状が悪心・嘔吐です。 悪心・嘔吐が生じる時期には個人差もありますが、一般的には投与日?5日の期間に見られます。
有害事象共通用語基準(CTCAE)に基づく、悪心・嘔吐の重症度分類は以下の通りです。
| 重症度 | Grade1 | Grade2 | Grade3 | Grade4 | Grade5 |
|---|---|---|---|---|---|
| 悪心 | 摂食習慣に影響しない食欲低下 | 顕著な体重減少、経口摂取量の減少 | カロリーや水分の経口摂取が不足、入院が必要 | - | - |
| 嘔吐 | 治療不要 | 輸液などの治療が必要 | 経管栄養、入院が必要 | 生命の危機 | 死亡 |
抗がん薬による悪心・嘔吐について、以下の観点から解説していきます。
- 発生するメカニズム
- 分類
- 支持療法
それぞれについて見ていきましょう。
発生するメカニズム
悪心・嘔吐が起こる理由を一言で表すと、脳の延髄という場所に存在する、「嘔吐中枢」という場所が刺激されるためです。 嘔吐中枢に至るまでの経路には、主に以下の3つがあります。
| 経路 | メカニズム |
|---|---|
| ①上部消化管 | 1.抗がん薬が「クロム親和性細胞」を傷害する 2.クロム親和性細胞が「セロトニン」を分泌する 3.セロトニンが「5-HT?受容体」に結合し、迷走神経を刺激する 4.迷走神経への刺激が嘔吐中枢に伝わる |
| ②化学受容器引き金帯(CTZ) | 1.抗がん薬が化学受容器引き金帯(CTZ)を刺激する 2.CTZへの刺激により「サブスタンスP」の分泌が活性化される 3.サブスタンスPが「ニューロキニン1(NK?)受容体」に結合し、刺激が嘔吐中枢に伝わる |
| ③大脳皮質 | 1.悪心・嘔吐の記憶や不安といった情動刺激が起こる 2.情動刺激により嘔吐中枢が刺激される |
また、抗がん薬による悪心・嘔吐のメカニズムに関与しているのは、以上に挙げた物質のみではありません。 具体的には、ホルモンの一種である「ドパミン」なども、嘔吐中枢への刺激に関わっています。
分類
症状が生じる時期や状況などから、抗がん薬による悪心・嘔吐は以下のように分類されます。
| 悪心・嘔吐の種類 | 生じる時期や状況など | 主に関与する因子 |
|---|---|---|
| 急性悪心・嘔吐 | ・抗がん薬の投与後24時間以内に生じる ・薬物療法に大きな影響を与えてしまう |
・セロトニン → 5-HT?受容体 ・サブスタンスP → NK?受容体 |
| 遅発性悪心・嘔吐 | ・抗がん薬の投与後24時間~約1週間に生じる ・急性悪心・嘔吐への対応が十分でなかった場合に起こりやすい |
・サブスタンスP → NK?受容体 ・腸管粘膜の炎症や組織障害 |
| 突出性悪心・嘔吐 | ・吐き気止めを予防的に投与しても突発的に生じる ・吐き気止めを追加したり、次回以降の投与量を増やしたりする |
・セロトニン → 5-HT?受容体 ・サブスタンスP → NK?受容体 ・腸管粘膜の炎症や組織障害 |
| 予期制悪心・嘔吐 | ・抗がん薬による悪心・嘔吐を経験した人に生じる ・抗がん薬を投与する前夜や治療室に入室するタイミングなどで生じやすい |
・悪心・嘔吐の記憶や不安などの情動刺激 |
支持療法
抗がん薬による悪心・嘔吐に対する支持療法について、押さえておきたいポイントは以下の通りです。
- 催吐性リスク(後述)に応じた吐き気止めを選択する
- 抗がん薬以外が原因である可能性を検討する(消化管閉塞や脳転移、電解質異常、オピオイドの副作用など)
- 吐き気止めの効果判定を行い、必要に応じて投与量を見直したり薬剤を変更したりする
- 食事は無理に摂ろうとしない
- 水分は可能ならばスポーツドリンクなどで摂る
- 吐いてしまった際はうがいと換気を行い、度合いと回数を記録しておく
以上のポイントを守ることで、患者さんにとって有益となる支持療法を行えます。
催吐性リスク
様々な抗がん薬で悪心・嘔吐が認められますが、その頻度は薬剤ごとに異なります。 薬剤投与後24時間以内の発症頻度に基づいた、抗がん薬の催吐性リスクは以下の通りです。
| 催吐性リスク | 悪心・嘔吐の頻度 | 主な抗がん薬 |
|---|---|---|
| 高度リスク | > 90% | ・AC療法 ・EC療法 ・FOLFOXIRI療法 ・シクロホスファミド(≧1500mg/m^2) ・シスプラチン ・ストレプトゾシン |
| 中等度リスク | 30~90% | ・カルボプラチン ・イホスファミド ・イリノテカン ・メトトレキサート(>250mg/m^2) ・シクロホスファミド(<1500mg/m^2) ・シタラビン(>200mg/m^2) |
| 軽度リスク | 10~30% | ・パクリタキセル ・フルオロウラシル ・メトトレキサート(50~250mg/m^2) |
| 最小度リスク | < 10% | ・シタラビン(<100mg/m^2) ・ビンクリスチン ・メトトレキサート(≦50mg/m^2) |
吐き気止めの種類
抗がん薬による悪心・嘔吐に対して、主に用いられている種類は以下の通りです。
| 種類 | セロトニン(5-HT?)受容体拮抗薬 | ニューロキニン(NK?)受容体拮抗薬 | 副腎皮質ステロイド | ドパミン(D?)受容体拮抗薬 | ベンゾジアゼピン(BZ)系抗不安薬 |
|---|---|---|---|---|---|
| 該当する薬剤 | ・アザセトロン ・インジセトロン ・オンダンセトロン ・グラニセトロン ・ラモセトロン ・パロノセトロン |
・アプレピタント ・ホスアプレピタント |
・デキサメタゾン | ・ドンペリドン ・メトクロプラミド ・クロルプロマジン ・プロクロルペラジン |
・アルプラゾラム ・ロラゼパム |
| 有効な悪心・嘔吐の種類 | ・急性悪心・嘔吐 ・突出性悪心・嘔吐 |
・急性悪心・嘔吐 ・遅発性悪心・嘔吐 |
遅発性悪心・嘔吐 | 突出性悪心・嘔吐 | 予期性悪心・嘔吐 |
| 作用するメカニズム | セロトニンが5-HT?受容体に結合するのを阻害する | サブスタンスPがNK?受容体に結合するのを阻害する | 抗炎症作用や脳保護作用が関与していると考えられる | ドパミンがD?受容体に結合するのを阻害する | 「GABA受容体」に作用することで神経の興奮を抑える |
それぞれの吐き気止めごとに、有効な悪心・嘔吐の種類や作用するメカニズムが異なるため、複数の薬剤を併用するケースも多いです。
吐き気止めの選択
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抗がん薬による悪心・嘔吐に対してどの吐き気止めを用いるのかは、主に抗がん剤の催吐性リスクから決定されます。
| 高度リスクの抗がん薬 | 5-HT?受容体阻害薬、NK?受容体阻害薬、副腎皮質ステロイドの3剤併用 |
|---|---|
| 中等度リスクの抗がん薬 | HT?受容体阻害薬、副腎皮質ステロイドの2剤併用 |
| 軽度リスクの抗がん薬 | 副腎皮質ステロイド |
| 最小度リスクの抗がん薬 | 通常吐き気止めを投与しない |
また、突出性悪心・嘔吐や予期性悪心・嘔吐に対しては以下のように対応します。
| 突出性悪心・嘔吐 | ・作用するメカニズムが異なる複数の吐き気止めを服用する |
|---|---|
| 予期性悪心・嘔吐 | ・初めて抗がん薬を用いる時から十分に吐き気止めを服用して予防する ・発生した際はベンゾジアゼピン系抗不安薬を服用する |
まとめ:吐き気止めで抗がん薬による悪心・嘔吐を和らげよう
抗がん薬により生じる副作用として、代表的なものが悪心・嘔吐です。 発症時期や状況などから、急性・遅発性・突出性・予期性に分類されます。
抗がん薬ごとに催吐性リスクが異なり、それぞれに応じた吐き気止めが選択されます。 それぞれの吐き気止めが作用するメカニズムや有効な悪心・嘔吐の種類を理解し、抗がん薬に対する支持療法に役立てましょう。