パーキンソン病の治療では、薬の効き方が時間とともに変化していくことがあります。 はじめはよく効いていた薬が、次第に効果の持続時間が短くなったり、効いたり切れたりを繰り返すようになったりすることがあります。 このような変化に対応するためにレボドパと呼ばれる主な治療薬に加えて、補助的に使われる薬がいくつかあります。
その1つが末梢COMT阻害薬です。 この薬は、レボドパの効果をより安定させることを目的として使われていますが、名前を聞いただけではどんな薬なのか分かりづらいと感じる方も多いかもしれません。
この記事では、末梢COMT阻害薬とは何か、その仕組みや働き、副作用、実際に使われている薬剤の特徴などをわかりやすく解説します。 パーキンソン病治療への理解を深めて不安を減らし、より納得のいく治療選択に繋げていきましょう。
パーキンソン病とはどのような病気か
末梢COMT阻害薬の解説の前に、まずは簡単にパーキンソン病とはどんな病気であるのかを説明していきます。
パーキンソン病の症状
パーキンソン病は脳内の神経伝達物質であるドパミンが減少することで体の動きにさまざまな支障をきたす病気で、特に中脳の黒質という部分にあるドパミンを作る神経細胞が徐々に減っていくことによって症状が現れます。
主な症状としては、手足のふるえや筋肉のこわばり、動作が遅くなる(無動)、体のバランスがとりづらくなる(姿勢保持障害)などがあり、こうした運動症状のほかにも、便秘や立ちくらみ、睡眠障害、うつ症状などの非運動症状が見られることもあります。
パーキンソン病は進行性の病気ですが、適切な治療を行うことで症状をコントロールし、日常生活の質を保つことが可能です。 治療の中心となるのはドパミンの働きを補う薬物療法であり、その中でもレボドパという薬はパーキンソン病治療における第一選択薬となってます。
しかしながら、このレボドパは長期間使用していると、効果の持続時間が短くなったり、運動症状が悪化するウェアリングオフなどの問題が生じることがあります。
ウェアリングオフはなぜ起こる?
ウェアリングオフとはパーキンソン病の薬であるレボドパの効果が持続せず、次の服薬時間の前に症状が再び現れてしまう状態を指します。 レボドパを服用直後は身体がよく動く「オン」の状態になりますが、時間が経つにつれて効果が切れ、「オフ」の状態へと移行するのが特徴です。
このウェアリングオフという現象が起こる主な原因は、病気の進行によって脳内のドパミンを蓄えておく力が低下するためです。 初期のパーキンソン病ではレボドパを脳内に取り込んだあと、神経細胞がある程度ドパミンをためて必要に応じて放出できますが、神経細胞が減ってくるとドパミンを十分に貯蔵できなくなり、レボドパの効果が切れるとすぐに症状が出るようになります。
こうしたウェアリングオフに対応するため、服薬の間隔や量を調整したり、レボドパの分解を抑える補助的な薬として末梢COMT阻害薬やMAO-B阻害薬などが使われることがあります。
末梢COMT阻害薬とは
末梢COMT阻害薬とは、パーキンソン病の治療薬であるレボドパの効果を長持ちさせるために使われる薬です。
COMTの正式名称とCOMT阻害薬の作用機序
COMTは「カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ」という酵素の略称で、体内でドパミンやレボドパを分解する働きを持っています。
レボドパは服用後、腸で吸収されて血液中に入り、脳内でドパミンに変わることでパーキンソン病の症状を和らげる重要な薬ですが、体内に入ってから脳に届くまでの間にCOMTによって分解され、脳に届く量が減ってしまうことがあります。
そこで、COMTの働きを阻害してレボドパの分解を抑え、より多くを脳に届けるために使用するのがCOMT阻害薬です。
COMT阻害薬の種類
COMT阻害薬には作用する部位の違いによって末梢型と中枢型があり、末梢型は体の中でも脳の外側で働くCOMTの作用を抑える薬とされ、脳にはほとんど入らないといわれています。 一方、中枢型は脳内に作用するタイプで、まだ日本では広く使われていません。
中枢型には副作用が多い薬もあることから、一般的には末梢型のエンタカポン(商品名:コムタン)がレボドパに追加して処方されることが多いです。
パーキンソン病治療における末梢COMT阻害薬の役割
末梢COMT阻害薬はレボドパ治療を補助する目的で使われる薬であり、薬の効果を安定させるために、近年では併用が進められています。
レボドパ治療との併用効果
パーキンソン病の治療で長く使われているレボドパは、脳内のドパミン不足を補う代表的な薬です。 ドパミンそのものは脳に直接届きませんが、レボドパは血液脳関門を通過できることから、服用すると脳内でドパミンに変換されて、手足の震えや筋肉のこわばりなどの運動症状を改善します。
しかし、レボドパは体内で脳に届く前にCOMTなどによって分解されてしまうため、最終的に脳に届く量が減ってしまうデメリットがあります。 この時、末梢COMT阻害薬を使用することで、COMTの働きを抑えてレボドパの分解を防ぎ、より多くの有効成分が脳に届くようになります。 この結果、レボドパの血中濃度が安定し、薬の効果が持続しやすくなるのです。
特に時間が経つにつれてレボドパの効きが短くなるウェアリングオフが現れてきた患者にとっては、末梢COMT阻害薬の併用が大きな助けとなります。 服用してから次の服用までの間で症状が戻ることを防ぎ、薬が効いているオンの時間を延ばす効果が期待できます。
パーキンソン病に対する効果
末梢COMT阻害薬はそれ自体がパーキンソン病の症状を改善するわけではありませんが、レボドパの効果を引き出すことで間接的に症状を改善させる補助的な効果があります。 また、レボドパ単独では安定しにくい症状に対し、その有効成分の血中濃度を維持することで、よりスムーズで持続的な治療効果が期待できるとも言われています。
具体的には、動作が途中で止まりやすくなるすくみ足などのオン・オフの変動が大きい症状の軽減が期待され、日常生活の動きやすさや安心感の向上に繋がります。 パーキンソン病の治療では1つの薬だけでコントロールすることは難しく、時間の経過とともに症状や薬の効き方も変化していきます。 その中で、末梢COMT阻害薬はレボドパ療法を支える重要なサポート薬として、多くの方の症状の抑制に役立っています。
代表的なCOMT阻害薬の一覧と特徴
現在、日本国内で使用されているCOMT阻害薬は限られていますが、いずれもレボドパと併用することでその効果を補う目的で処方されます。 薬剤ごとに作用の持続時間や副作用の傾向が異なり、症状や体質などに合わせて薬が選択されます。
日本で使われているCOMT阻害薬にはエンタカポンが主成分のコムタン、オピカポンが主成分のオンジェンティスの2種類があります。 どちらも末梢COMT阻害薬に分類される薬で、脳内には移行せず、体の外側でレボドパの分解を防ぐ働きをします。
エンタカポン
エンタカポンは、レボドパと同時に服用するタイプの薬で、作用時間は比較的短いために1日数回の服用が必要とされることが多いのが特徴です。 エンタカポンはレボドパ単剤で治療していた患者さんがウェアリングオフを感じるようになったときに、追加される従来から使用されてきた薬です。
エンタカポンの副作用には睡眠障害や幻覚、ジスキネジー、便秘、着色尿などがあり、重篤な副作用として悪性症候群や横紋筋融解症、突発性傾眠などの報告もあります。 このようにエンタカポンの服用中は突然眠ってしまうことがあるので、乗り物の運転や危険な作業などは行わないでください。
オピカポン
オピカポンは日本では2020年に承認された比較的新しい薬です。 1日1回の服用で長時間作用するという特徴があり、服薬回数を減らしたい方や服薬管理が難しい方にとっては使いやすい薬といえるかもしれません。
ただし、オピカポンにも便秘や浮動性めまい、睡眠障害、口渇などの副作用に加え、ジスキネジアや幻覚、突発的傾眠などの重篤な副作用も報告されています。 エンタカポンと同様に乗り物の運転や危険な作業は避け、万一体調に異変が起きたときには速やかに医療機関を受診してください。
COMT阻害薬とMAO-B阻害薬の違い
パーキンソン病治療で使われる補助薬には、COMT阻害薬のほかにMAO-B阻害薬があり、どちらもレボドパの効果を安定させるために使われる点は共通していますが、その作用する場所と仕組みは異なります。
これまでお話してきた通り、COMT阻害薬は主に体の末梢でレボドパの分解を防ぐ薬で、脳に入る前の段階でのレボドパの分解を阻害する作用を持ちます。 一方、MAO-B阻害薬は脳内でドパミンを分解する働きがある酵素モノアミン酸化酵素Bを阻害することで、脳内のドパミン濃度を維持する作用があります。
どちらの薬も特徴に応じて適切に使い分けられ、治療の経過や症状に合わせて選択されています。
末梢COMT阻害薬はパーキンソン病治療薬のレボドパの作用を補助する薬
末梢COMT阻害薬はパーキンソン病治療においてレボドパの効果を安定させる作用がある補助薬で、レボドパの分解を抑えることで薬の効きが長続きし、オン・オフの波を軽減する助けになります。
末梢COMT阻害薬にはエンタカポンやオピカポンといった薬があり、それぞれ服薬方法や副作用に特徴があります。 また、別の作用を持つパーキンソン病治療薬としてMAO-B阻害薬も存在します。
それぞれの薬の作用を知ることは薬を正しく使用することに繋がるため、自分が使用する薬について学び、積極的に治療に励んでいきましょう。