「日本脳炎は子どもの病気」というイメージを持つ人は多いかもしれませんが、実は大人も油断できません。 日本脳炎ウイルスに感染すると高熱や意識障害などの重い症状を引き起こし、その中の約20?40%は亡くなり、生存した方の45?70%に後遺症が残ってしまいます。 このような恐ろしい病気のため、流行地域に旅行や転居をする方はもちろん、子どもの頃に定期接種がなかった北海道出身の方は注意が必要です。
今回は大人が日本脳炎ワクチン接種を検討すべき理由、必要な接種回数とスケジュール、費用や副反応、接種時の注意点について解説していきます。 日本脳炎ワクチンを打った記憶がない方や、日本脳炎が流行している地域へ訪れる予定がある方は参考にしてください。
大人も知っておきたい日本脳炎の基礎知識
日本脳炎は日本脳炎ウイルスを原因とする急性脳炎で、主にコガタアカイエカという蚊がブタなどの動物を媒介して人にウイルスを感染させます。 日本国内では衛生環境の向上やワクチン接種の普及により患者数は大きく減少していますが、毎年数名の発症が報告されており、特に流行地域では注意が必要です。
日本脳炎の原因と大人の症状
日本脳炎ウイルスに感染した蚊に刺されることで日本脳炎に感染しますが、無症状で気付かないうちに治ることがほとんどです。
しかしながら、感染した人のうち1,000人に1人の割合でウイルスが脳に侵入し、高熱、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんなどの神経症状が現れます。 発症した場合の致死率は20?40%とされ、生存しても運動障害や記憶障害など重い後遺症が残ることがあるのが日本脳炎の特徴です。
子どもや高齢者の方が発症するリスクが高いとされていますが、大人であっても免疫が十分でない場合は重症化する傾向があるため注意が必要です。
日本脳炎の流行地域
日本脳炎は日本で感染する可能性もある病気で、九州、四国、沖縄など温暖な地域での発症が多く、特に蚊の活動が活発な夏から秋にかけて感染リスクが高まります。 一方で、北海道ではこれまで患者報告はほとんどありません。
海外ではベトナム、タイ、フィリピンなどの東南アジアで流行が続いており、特に農村部や水田エリアなどを訪れる時には注意が必要です。
大人でも日本脳炎ワクチンの接種が重要な理由
日本脳炎ウイルスに対する免疫は、幼少期にワクチンを接種していても時間の経過とともに低下することがあります。 そのため、子どもの頃に接種を受けていなかったり接種歴が不確かだったりする場合は、流行地域への渡航や居住を機に接種を検討する必要があります。
また、北海道エリアは日本脳炎のリスクが低かったことから、2015年まで日本脳炎ワクチンの定期接種を行っていませんでした。 つまり、北海道出身の方は日本脳炎ワクチンを接種していない可能性が高く、免疫がないことが懸念されます。
日本脳炎はワクチンを接種することで75?90%のリスクを軽減できる感染症です。 発症後の治療は対症療法が中心となるため、重症化を防ぐには事前の予防が不可欠といえるでしょう。
大人で日本脳炎ワクチン接種が必要なケース
日本脳炎は子どもの病気と考えられがちですが、成人においても感染・発症のリスクは完全にはなくなりません。 感染する機会は限られているものの重症化すると命に関わることから、次の条件に該当する場合には積極的な予防策を講じることが求められます。
接種歴が不十分・または不明な人
接種の記録が残っていない、もしくは途中で中断してしまったという人は少なくありません。
例えば、40代以上の世代では制度変更やワクチン供給の影響で接種機会が限られていた地域もあり、接種率にばらつきがあります。 さらに2004年に日本脳炎ワクチン接種後に急性散剤性脳脊髄炎を発症した事例があったため、新しい日本脳炎ワクチンが開発された2010年初頭まで接種が控えられていました。 また、先ほどもお話したように北海道では感染リスクが低いために、2015年までは幼少期の定期接種が行われていませんでした。
このように日本脳炎ワクチンは生まれた年齢や地域によっても接種の機会が限られていたため、母子手帳などで接種記録を確認することが大切です。 接種済みかどうか分からない場合、抗体検査を受けることも可能ですが、検査をするよりも追加接種が推奨されることが多いです。
接種歴が曖昧なままだと、いざ流行地域に行く必要が出た際、急なスケジュールでの接種や接種間隔の確保が難しくなる可能性もあります。 このようなことからも、日本脳炎ワクチンに限らず、すべての予防接種において事前に自分の接種歴を確認しておくことが大切です。
流行地域での生活や旅行予定がある場合
日本国内では九州・四国・沖縄地方を中心に、今も日本脳炎ウイルスを媒介する蚊が広く分布しているため、これらの地域に居住する人はもちろん、夏季に旅行を計画している人も注意が必要です。
特に東南アジアやインドなど、日本脳炎が流行している地域に渡航する予定がある人においては免疫をつけておくことが大切です。 厚生労働省でも、これら地域に訪問する際には日本脳炎ワクチンを接種することを検討するよう呼びかけています。
幼少期に日本脳炎ワクチンを接種したとしても、大人になるにつれて免疫が落ちてきます。 感染症にかかるリスクも考慮しながら、ワクチンによる予防接種を検討してください。
大人の日本脳炎ワクチン接種回数とスケジュール
大人が日本脳炎ワクチンを接種する時に必要な回数や接種間隔は、子どもの頃にどの程度接種を完了しているかによって異なります。 ここでは接種状況別のワクチン接種の必要回数について確認していきましょう。
子どもの定期接種の回数
日本脳炎ワクチンの定期接種は1期と2期に分けて行われ、1期は3?4歳に1回目と2回目を6?27日の間隔で接種し、そのおおむね1年後に追加接種を1回行います。 その後、小学校に入学後の9?10歳の間に2期として1回の追加接種が行われます。 1期3回と2期1回の合計4回の接種で一通りのスケジュールが完了します。
これら期間に日本脳炎ワクチンを接種すれば、定期接種の対象となるため、費用はかかりません。
大人は何回接種するのか
子どもの頃に日本脳炎ワクチンを接種していなかったり、途中で中断していたりする場合でも、大人になってから接種して免疫をつけることは可能です。 ただし、接種する回数についてはこれまで何回接種したかによって異なります。
まず、一度も受けていない場合には、2回の初回接種と6ヵ月以上あけた追加接種の合計3回が推奨されます。 初回接種は1回目の接種後に1?4週間あけて2回目を接種、追加接種はその1年後に行います。
次に数回接種したものの完了していない場合には、未接種分を補う形で接種を再開する方法が基本とされています。 ただし、接種から数十年が経過している場合は抗体がほとんど残っていないこともあり、医師によっては初回接種と同様のスケジュールを提案することがあります。
また、子どもの頃に日本脳炎ワクチンの接種を完了しているけど免疫の不安から接種したい場合には、1?2回接種します。
ワクチン接種が完了して約2週間後から予防に必要な抗体が得られるため、旅行や引っ越しなどの日程を考慮して、計画的に接種することが大切です。
生涯免疫は期待できるのか
日本脳炎ワクチンで獲得した免疫は長期間持続しますが、一生続くわけではありません。 一説には日本脳炎ワクチンの免疫効果は約10年といわれているため、抗体を維持し続けるには5?10年ごとの追加接種が必要になります。
以前は子どもに多かった日本脳炎も、予防接種の効果もあって患者数は非常に少なくなり、現在は高齢者の患者さんが中心となっています。 このことからも日本脳炎ワクチンには生涯免疫は獲得できないものの、接種後は一定の効果があることがわかります。
大人の日本脳炎ワクチンの費用と接種できる医療機関
子どもの定期接種期間内であれば公費助成により自己負担はありませんが、大人の場合は対象外となり自費で接種を受けるケースが多くなっています。 ここでは日本脳炎ワクチンの料金や接種を受けられる医療機関について紹介していきます。
日本脳炎ワクチンの自費料金
定期接種期間外となった場合、ほとんどの自治体で定期接種の助成対象外となるため自費診療となります。 費用は医療機関や地域によって異なりますが、1回あたり約3,000?9,000円が目安となり、初回接種から追加接種まで3回接種する場合は合計で1?3万円前後の負担が必要になることが多いです。
また、もし接種証明書が必要となる場合には別途発行費用がかかることもあります。 日本語の接種証明書は無料で発行できる医療機関もありますが、英語で作成する場合には有料となることが多いとされています。
日本脳炎ワクチンを接種できる医療機関と予約のポイント
大人が日本脳炎ワクチンを接種する時は、内科や小児科、予防接種専用のクリニックなどの予防接種を扱うクリニックで受けることができます。 ただし、大人の接種を積極的に行っていない医療機関もあるため、事前に大人への接種が可能かを問い合わせることは大切です。
また、渡航を予定されている方向けのトラベルクリニックや渡航外来では海外渡航者向けにワクチンが常備されていることが多く、接種スケジュールについても詳しい説明が受けられます。 渡航する地域で他のワクチン接種が必要な場合は、利便性が高いといえるでしょう。
日本脳炎ワクチンの接種前に確認しておくべきこと
接種前には、過去の接種歴をできる限り把握しておきましょう。 接種記録は母子手帳に記載してありますが、健康情報をマイナポータルと連携することでも確認できるようになります。 ただし、分からない場合は医師に相談することで最適な接種回数を判断してもらえるので、接種記録を無理に探す必要はありません。
また、接種スケジュールに無理がないかも確認しておきましょう。 特に引っ越しや渡航など時間が限られている場合は、1回目を接種する前にいつまでに完了したいかを医療機関に相談しておくことが大切です。 ワクチン製造や流通に支障が起きて、時期によっては在庫不足になることも考えられるので、できるだけ余裕を持って行動するようにしましょう。
大人の日本脳炎ワクチン副反応と注意点
日本脳炎ワクチンは長年使用されていますが、大人の場合でも副反応が全く起こらないわけではありません。 重い副作用はまれですが、接種前に起こり得る症状や注意点を理解しておくことは、接種を検討するうえでも非常に重要です。
日本脳炎ワクチンの副反応
日本脳炎ワクチン接種後に多くみられる副反応は接種部位の腫れや発赤、軽い痛みで、下痢や鼻水、咳、発熱、頭痛、倦怠感など風邪のような症状があらわれることもあります。 これらは通常数日で自然に改善しますが、まれに長引くことがあります。
また、重篤な副反応としてごくまれにショックやアナフィラキシー、急性散在性脳脊髄炎、けいれん、血小板減少性紫斑病といった脳炎や脳症の報告があります。 万が一、副反応が強く現れた場合は速やかに医療機関へ相談してください。
接種時の注意点
日本脳炎ワクチンに限らず、予防接種を行う時は健康であることが基本であるため、37.5℃を超える発熱があったり、体調がすぐれなかったりする時には接種は延期されます。
また、重い基礎疾患や免疫不全がある方、妊娠中や妊娠の可能性がある方は必ず事前に医師へ相談しましょう。 特に過去にワクチン接種で強いアレルギー反応を起こした経験がある方は注意が必要です。 事前に過去の既往歴を確認し、問診時に正確に伝えてください。
接種後の過ごし方
ワクチン接種後も通常に生活を送ることは問題ないとされてますが、激しい運動や飲酒を避け、できるだけ安静に過ごすことが望ましいです。 入浴も問題ありませんが、注射部位をこするなどして刺激しないように気をつけてください。
軽度な副反応が起きた時は様子を観察しながら自然回復を待ちますが、期間が長い時や症状が強くなるような時には速やかに医療機関を受診しましょう。
日本脳炎ワクチン接種以外の対策
日本脳炎ウイルスは蚊を媒介として感染するため、日常生活での蚊対策は一定の効果があります。 このことからも、蚊に刺されにくい生活環境を整えることも大切です。
日本脳炎を媒介する蚊の特徴と活動時期
日本脳炎ウイルスを媒介するのはコガタアカイエカという種類の蚊で、水田や沼地など水が豊富な環境を好みます。 6月から10月にかけての温暖な時期に活動が最も活発になりますが、活動を開始する3月から11月頃までは対策が必要です。
特に夕方から夜間にかけて吸血活動が盛んで、屋外での農作業やレジャー、散歩などで刺されるリスクが高まります。
日常生活でできる具体的な対策
蚊を完全に避けることはできませんが、刺される機会を減らす工夫は感染リスク低下につながります。
例えば、長袖・長ズボンを着用して肌の露出を抑えることはもちろん、入浴やシャワーで皮脂と汗を洗い流して身体を清潔に保つことも効果的といえます。 それに加えて、虫よけスプレーや蚊取り線香を併用することで、刺される可能性をさらに減らせます。
また、蚊はわずかな水でも繁殖するため、植木鉢の受け皿や雨水がたまった容器を定期的に確認して蚊の発生源を減らすことも意識しましょう。
このような生活習慣の工夫は一定の予防効果がありますが、蚊を完全に避けることは難しいかもしれません。 日本脳炎は一度発症すると重症化する感染症のため、不安がある場合にはワクチン接種を検討するとよいでしょう。
日本脳炎ワクチンは大人も状況に応じて適切に接種を
日本脳炎は子どもの病気と思われがちですが、大人でも感染すれば高熱や意識障害など重い症状を引き起こし、後遺症が残る危険があります。 国内の患者数は減少していますが、九州や四国、沖縄を中心とした流行地域や東南アジアへの渡航では感染リスクが残っている病気です。
大人が必要とする接種回数は、子どもの頃に受けた定期接種の回数や抗体の有無によって異なります。 特に接種の機会が限られていた北海道出身の方や、一時的に接種控えが起きた2004?2010年の対象者は免疫がない可能性があるので注意が必要です。 これらの方に加え、流行地域に長期滞在する予定がある場合は、抗体価が低下している可能性も考慮し、医師に相談したうえで追加接種を検討してください。
ワクチン接種に加えて、蚊に刺されない対策を生活に取り入れることで、さらに感染リスクが軽減されます。 思わぬ病気に感染しないように、日頃から対策を講じていきましょう。