マラリアは熱帯や亜熱帯を中心に流行する感染症で、日本国内での発症はまれですが、海外渡航者を中心に毎年報告が続いています。 発熱や頭痛、倦怠感といった症状から重症化に至ることもあるため、適切な予防と治療が欠かせません。 このとき心強い存在となるのが、抗マラリア薬とマラリア予防薬です。
マラリアの薬には、マラリア感染を防ぐ予防薬と治療を目的とした抗マラリア薬があり、処方の対象や使い方、副作用の特徴は薬ごとに異なります。 出発前にどこで予防薬を入手できるのか、費用はどのくらいかかるのかを理解し、しっかり準備してから渡航しましょう。 また、万が一感染したときのために、治療法や第一選択薬について知っておくことも命を守るために重要です。
本記事では、マラリア薬の種類や日本での入手方法、値段の目安、副作用のリスクまでを整理し、さらに薬以外に実践したいマラリア対策も解説します。 渡航先で安全に過ごすために、正しく準備しておきましょう。
マラリアとはどんな病気か
マラリアは蚊を媒介として広がる感染症で、世界中で毎年2億人が感染し、そのなかの40万人が命を落としている病気です。 日本では馴染みの薄い感染症かもしれませんが、流行地域では依然として大きな健康被害をもたらしています。
そのため、流行地域へ出掛ける際にはマラリアの感染の仕組みや症状の特徴を理解しておくことが命を守るために大切です。 ここではマラリアの原因や感染経路、症状の全体像を解説します。
マラリアの原因と感染経路
マラリアはマラリア原虫という寄生虫によって起こる感染症で、ハマダラ蚊が人間の血を吸うときに唾液とともにマラリア原虫を体の中に入れることで感染します。 体内に入ったマラリア原虫は、まず肝臓で増殖し、その1?2週間後に血液の赤血球に寄生します。 赤血球でも増殖を続け、やがて赤血球を破壊して次の赤血球へと寄生を繰り返します。 この赤血球が破壊される過程で、発熱や悪寒などの症状が現れるのがマラリアの特徴です。
マラリア原虫には熱帯熱マラリア・三日熱マラリア・四日熱マラリア・卵形マラリア・二日熱マラリアの5種類があります。 このうち熱帯熱マラリアは重症化しやすく、治療が遅れると死に至ることもあるため、最も警戒されています。
マラリアは地域によって流行している種類が異なり、場所によっては複数の種類のマラリアに警戒する必要があります。
マラリアは人から人へうつらない
マラリアは麻疹やインフルエンザといった他の感染症と違って、空気感染や飛沫で感染が広がる病気ではありません。 感染経路のほとんどは蚊を介するもので、人から人への直接感染は基本的に起こりません。 ただし、輸血や母子感染など特殊な状況で原虫が血液を介して移行する例も報告されています。
また、マラリアに感染している人を刺したハマダラ蚊が他の人を刺すことでも感染が起きます。 このようにマラリアが流行している地域では連鎖的に感染が広まっていきます。
マラリアの主な症状と重症化のリスク
マラリアはハマダラ蚊に刺されてすぐに発症するわけではなく、約7?14日の潜伏期間をおいてから、発熱や倦怠感といった症状があらわれることが多いです。 マラリアの典型的な症状は、周期的な39?41℃の発熱で、寒気や頭痛、吐き気、筋肉痛、倦怠感などを伴います。
この発熱は数日ごとに繰り返される特徴があり、これにはマラリア原虫の生育サイクルが影響しています。 例えば、三日熱マラリアと卵マラリアでは48時間周期で発熱し、四日熱マラリアでは72時間周期で発熱を繰り返します。
また、熱帯熱マラリアは発作が不規則で症状が強く出やすく、意識障害や呼吸困難、腎不全、脳症などを引き起こして重症化し、命にかかわるケースも出てきます。 そのため、24時間以内に治療を開始しなければなりません。
日本国内での発症は年間数十例と少ない感染症ですが、グローバル化が進んだ現在、決して自分とは関係ない病気とはいえないのです。
マラリア予防薬の一覧
マラリアの発症を防ぐために、流行地域へ渡航するときには予防薬の服用が基本とされ、日本国内でも医療機関で処方を受けることができます。
感染リスクを完全にゼロにはできませんが、マラリア予防薬の服用によってかなり高い割合でマラリアの発症を抑え、重症化を大きく防げるとされています。 そのため、流行地域への旅行や長期滞在、留学、ボランティア活動などの際には、必ず予防薬を使用してください。
ここでは、日本で入手できるマラリア予防薬を3つ紹介していきます。 マラリア予防薬は渡航先の流行種や滞在期間などによって、適応となる予防薬が異なるので、情報を整理しておきましょう。
マラロン
マラロンはアトバコンとプログアニル塩酸塩の合剤で、マラリア原虫の核酸の複製に必要となるピリミジンとチミジル散の合成を阻害する作用をもつ薬です。 日本で承認されている薬であり、予防薬だけでなく、治療薬としても使用されます。
予防ではマラロンを1日1錠、毎日決まった時間に飲むのが基本です。 マラリア流行地域に入る24?48時間前に服用を開始し、渡航中に服用を続けることはもちろん、流行地域を離れたあとも7日間飲み続けることを忘れないでください。
これは体内に潜んでいる原虫を完全に退治する目的での服用であり、早期に中断してしまうとマラリアを発症する可能性が高まります。 マラリア予防薬を正しく服用することで90%以上マラリアの発症を予防できるので、用法用量は必ず守ってください。
マラロンは比較的副作用が少なく、精神神経や循環器系の症状があっても服用できるのが特徴です。 ただし、副作用として吐き気や下痢、腹痛といった胃腸症状、頭痛、発疹、めまいなどが起きる可能性があります。 副作用を軽減するために食事中や食後すぐに服用すると、症状が出にくくなります。
また、マラロンは服用開始が渡航直前からなので、急な出張や旅行でも対応しやすい点がメリットです。 ただし、毎日服用する必要があるため、費用がやや高めになる傾向があります。
メファキン
メファキンはメフロキン塩酸塩が主成分のマラリア予防薬で、マラリア原虫が赤血球のヘモグロビンを栄養とすることを阻害する作用があります。 マラロンと同様、国内承認されており、マラリア予防薬と治療薬に使用されます。
メファキンはマラリア流行地域へ到着する1週間前から服用を開始して、週に1回同じ曜日に飲み、流行地域を出たあとも4週間続けます。 週に1回の服用で効果が得られるため、長期滞在するときには便利な予防薬です。
ただし、マラロンよりも副作用が強く、うつ症状や頭痛、不眠といった精神神経症状があらわれやすく、飲み続けるのが難しいという事例もあります。 併用に注意が必要な薬も多く、アルコールやグレープフルーツジュースもメファキン服用中は控えてください。
さらに、メファキン耐性マラリアが存在するタイやカンボジア、ミャンマーに渡航する際はメファキンではなく、マラロンを使用しなければなりません。
ビブラマイシン
ビブラマイシンはドキシサイクリンを主成分とするテトラサイクリン系抗菌薬で、肺炎や中耳炎をはじめとするさまざまな感染症に適応がある薬です。 マラリア予防薬としては国内承認はされていませんが、CDCガイドラインでは推奨されています。 ビブラマイシンは予防薬としては使用されるものの、治療には使えません。
ビブラマイシンは毎日1錠服用するのが基本で、流行地域に入る1日前から流行地域を出たあと4週間は服用を続ける必要があります。 安価なので飲み続けやすいことがメリットですが、カンジダや日光過敏症、吐き気、下痢などの副作用があらわれやすいです。
メファキン耐性地域のタイやカンボジア、ミャンマーに渡航する際には選択肢の1つとなります。
抗マラリア薬と治療の基本
マラリアに感染してしまった場合でも、適切な薬を用いた治療をすれば回復できます。 ただし、原虫の種類や流行地域の耐性状況によって選択される薬が異なるため、世界的にも治療指針が細かく定められています。 ここでは抗マラリア薬の特徴や使い分け、治療と予防の違い、さらに耐性の問題について整理します。
代表的な抗マラリア薬と予防薬との違い
日本で承認されている抗マラリア薬には、キニーネ、メフロキン、アトバコン・プログアニル合剤(マラロン)、プリマキン、アルテメテル・ルメファントリン合剤があります。 重症例や熱帯熱マラリアの場合、アルテミシニン系薬剤であるアルテメテル・ルメファントリンが第一選択とされ、軽症例ではマラロンやメフロキンが使われることもあります。
抗マラリア薬はマラリアに感染したときの治療薬であり、体内に寄生した原虫を排除する目的で使用します。 予防薬と成分が重なる場合もありますが、用法・用量は大きく異なります。
マラロンを例にあげると、予防では1日1回1錠の服用ですが、治療では1回4錠を1日3回服用するのが基本です。 予防よりも用量が増えるので体内で増えた原虫を排除する効果は高まりますが、それと同時に副作用のリスクも高まる可能性があります。
耐性マラリアと抗マラリア薬の選択
近年問題となっているのが薬剤耐性マラリアです。 特に東南アジアやアフリカの一部では、アルテミシニン系薬剤や海外で流通しているクロロキンへの耐性が確認されています。
耐性株の出現によって治療が難しくなるケースがあり、流行国を中心に世界的な課題となっています。 そのため、WHOは複数の薬を組み合わせる併用療法を推奨しており、耐性拡大を抑える取り組みが続けられています。
また、持病や合併症の有無、そして予防薬として飲んでいる薬などの情報から抗マラリア薬を選択しなければなりません。 持病や合併症については薬の副作用や禁忌・飲み合わせから判断されます。 さらに、予防薬として飲んでいる薬は治療薬として使用できないのが原則なので、どの薬を飲んでいたかを必ず医師に報告する必要があります。
マラリアは薬で治せるのか
マラリアは適切な薬を用いれば治療可能な病気ですが、重症化した場合や治療開始が遅れた場合には生命に危険が及ぶため、早期診断と迅速な治療開始が不可欠です。
マラリア流行地域に到着してから7日以降に、マラリアを疑うような急な発熱や強い倦怠感を感じたときには急いで医療機関を受診します。 マラリアの潜伏期間は最長で約30日に及ぶこともあることも覚えておきましょう。
日本国内では、専門の医療機関で治療を受けるのが基本です。 速やかに治療を開始するためにも、感染症科のある医療機関で、渡航先の国名とマラリアの可能性を伝えることが大切です。
また、マラリアの種類によっては体内にマラリア原虫が休眠体として残る可能性があります。 休眠体が活動を始めると再度症状が出てしまうため、根治するまで抗マラリア薬による治療を続ける必要があります。
このように、急な体調悪化の危険性があるマラリアは、迅速な治療が求められる感染症です。 抗マラリア薬での治療は確立されていますが、流行地域で子どもの高い死因となっていることから、小さな子どもはできるだけ流行地域へ渡航しない方がよいとされています。 妊婦においても、予防薬や治療薬が赤ちゃんへ影響を与える可能性があるので、妊娠中は流行地域へ行くのは控えるべきと考えられます。
マラリア予防薬の購入と値段の目安
ここまでマラリア予防薬の重要性や感染したときのリスクについて解説してきました。 ここからはマラリア予防薬の入手方法と値段の目安について紹介していきます。
マラリア予防薬の入手方法
日本国内では、マラリア予防薬を薬局やドラッグストアで購入することはできないので、トラベルクリニックや一部の内科・感染症外来で医師の診察を受けて入手します。
これは渡航先や滞在期間によって適切な薬が異なったり、十分な効果を発揮するために正しく用法用量について指導したりするためです。 特にメファキンは渡航1週間前から服用を開始する必要があるので、渡航日程から逆算して、余裕をもって受診予約をしておくとよいでしょう。
また、長期の渡航になる場合には、事前に渡航日程を伝え、必要な分の予防薬を確保しておくような対策も重要です。
値段の目安と費用
マラリア予防薬の費用は、薬の種類や服用期間によって大きく異なります。 医療機関によって金額に違いがあるものの、あるトラベルクリニックを例にあげると、マラロンは1錠770円、メファキンは1錠1,100円、ビブラマイシンは10錠で550円です。 一見、マラロンよりもメファキンの方が高価に見えますが、マラロンは毎日1錠服用するのに対し、メファキンは週に1回1錠服用するので、総合的にはメファキンの方が安くなるケースが多いです。
ただし、これまでもお話してきた通り、渡航先で流行しているマラリアの種類や耐性菌、持病や副作用を見極めて薬を選択することが重要です。 そのため、費用ではなく、効果や継続性を考慮しながら抗マラリア薬を選択していく必要があるといえます。
予防薬以外のマラリア対策
マラリアの予防には予防薬の服用が重要ですが、それだけで感染を完全に防ぐことはできません。 実際には、蚊に刺されないための工夫や生活習慣の改善、防虫アイテムの活用が大切となります。 ここでは薬以外で実践できる具体的な対策を紹介します。
濃度が高い虫除け剤を使用する
日本でも蚊に刺されないための虫除け剤が販売されていますが、その多くはDEETという有効成分が約10%の商品です。 DEETの濃度は効果時間の違いであり、マラリア予防のためにはDEETが30%以上の虫除け剤を選ぶとよいとされています。
また、汗や水などで成分が流れてしまったときには、再度塗り直すといった丁寧なケアが大切です。 ただし、小さな子どもには使用制限もあるので、用法用量をよく確認してから使用しましょう。
蚊に刺されないための生活の工夫
マラリアの原因となるハマダラ蚊は夕方から明け方に行動するため、その時間は外での活動を控えましょう。 建物の中に居ても網戸や窓を閉め、蚊取り線香、蚊帳などを利用して、刺されない工夫をしてください。
洋服は長袖・長ズボンを着用し、靴下を履いて肌を露出しないことを心掛けます。 蚊が集まりやすい汗は入浴でできるだけ洗い流し、香水など匂いの強いものは使用しません。 また、アルコールを飲んだ後は蚊に刺されやすくなるので注意してください。
マラリア予防薬と対策で感染症を予防しよう
マラリアは世界で今も多くの人々の命を奪っている感染症であり、日本でも流行地域からの帰国者を中心に毎年患者が報告されています。 発熱や倦怠感といった症状から重症化に至ることもあるため、正しい知識を持つことが何より大切です。
予防の基本は蚊に刺されないための生活習慣ですが、流行地域に滞在する場合には予防薬の服用が欠かせません。 マラロン、メファキン、ビブラマイシンといった薬は、それぞれ特徴や副作用が異なるため、滞在先や体調に応じて医師と相談しながら選びましょう。
万が一マラリアに感染しても、早期に適切な治療をすれば回復できます。 そのためには医師が適切な治療薬を選択できるよう、渡航歴を正確に伝えることが大切です。
マラリア流行地域へ渡航するときには、予防薬と洋服などの対策を行い、体調の変化に注意していきましょう。
